
アキラ
須賀 彩夏
<あらすじ>
小説家のアキラは、妻子がありながら、一回り若い真由美と不倫関係にあり、朝帰りの日々を繰り返している。
ある日、高校時代の同級生の永野と再会する。クスリを久しぶりにやらないかという永野の誘いに軽い気持ちで乗ったアキラは、その日から永野の家に集まり、ジョイントを回し合うようになる。
執筆作業をしていると、編集者から新しく連載が決まったと連絡が来る。カメラマンの恵介と旅をし、写真と紀行文を連載するというものであった。恵介は、アキラと景子の大学時代の友人であり、久しぶりの再会を喜ぶ3人。あまり家に帰ってないことを知った恵介に諭されたアキラは、真由美に別れ話を切り出し、家庭に戻ろうとする。
仕事への道中、アキラは交通事故を起こしてしまう。大きな怪我は負わなかったものの、念のためにと連載は先送りになる。そんな中、真由美の妊娠が発覚する。精神的に追い込まれたアキラは引きこもるようになり、働かないアキラに滅入った景子は、アキラを罵るようになる。いつものように罵っていた景子は誤ってアキラを階段から突き飛ばしてしまう。
アキラが目を覚ますと病院のベッドの上であった。景子の必死の看病で退院したアキラは、相変わらず働けずに家にこもっていたが、これ以上家族に迷惑をかけまいと一人暮らしを始める。新しい生活で心機一転し、原稿用紙に向かうこともできるようになるアキラだったが、突然、恵介から余命宣告を受けたと連絡が来る。戸惑いながらもお見舞いに行くアキラだったが、死期が迫り、必死に生きようとする恵介の姿を見るのが怖くなり、次第に行かなくなってしまう。それに重ね、真由美から調停を申し立てられ、追い込まれたアキラは、再びクスリに手を出してしまう。
売人との約束に遅れて行ったアキラは、現行犯逮捕されてしまう。出所したアキラが恵介の見舞いに行く。やつれ、喋れなくなっている恵介だが、アキラを見ると微笑み、救われるアキラ。真由美の子とは血が繋がっていないことがわかり、区切りをつけたアキラは、景子の元に戻りたいと頭を下げると「おかえり」と迎え入れてくれる。
恵介の葬儀が行われている。紀行文の連載が叶わなかった恵介のために、恵介の写真を使って連載をさせてほしいと担当編集者に頼むアキラ。
アキラが原稿を書き上げる。書斎に佳奈が入ってくる。それを叱る景子だが、アキラは久しぶりに遊ぼうかと提案し、家族で出かけていく。書き終えた原稿には「崎村恵介に捧ぐ」と書いてある。

公式さん
萩野 あずみ
<あらすじ>
若い女性向けファッションブランド“b+”のマーケティング部に所属する松永瑞季(26)は、ある日、b+の公式SNSアカウントの中の人を任される。そんなとき、瑞季の弟である祥吾(20)の恋人・明日香(20)と出会う。明日香と瑞季はともに、ラミットストラディというアイドルグループの本望玲愛(22)のファンであり、特に明日香は SNSのフォロワー数も多い有名なファンだ。瑞季は、明日香への対抗心からか、b+のアカウントのフォロワー数を増やすことにはまり、同僚の内藤(34)と共に作戦会議を 開く。
瑞季がひとりでオタ活をしていると、偶然明日香に会う。瑞季は静かに応援するタイプであったが、明日香の影響で能動的に応援する楽しさを知る。瑞季の投稿は意図しない形で拡散され、結果フォロワー数は増加する。ファッションイベントに参加するなど仕事は順調であったが、一方でSNS上の否定的な意見に悩むように なる。
瑞季は明日香とラミットストラディの握手会へ行く。しかし当日になって、新型コロナウイルスの流行により握手会の中止が発表される。コロナの影響は仕事にも及び、テレワークが始まる。ネット広告に力を入れることになり、玲愛をCMキャラクターに起用した広告を撮影する。CMは賛否両論であったが、瑞季は肯定的な意見しか見ようとしない。
CMをきっかけに、ラミットストラディのライブ衣装のプロデュースをb+が担当することになる。ライブ後、瑞季は迷惑なファンに絡まれていた玲愛を助け、はじめて二人きりで話す。瑞季は、玲愛のイメージとは異なる弱い面を知る。
b+のアカウントが凍結される。瑞季はSNSから解放され、どこか安堵する。しかし、明日香や内藤、祥吾と話すうちに、このまま黙っていてはいけないと思うようになる。瑞季は内藤の助けを得て、ライブ配信を行う。公式アカウントの中の人であり、松永瑞季という個人である自分の気持ちを正直に話す。

みにくいアヒルの親
中野 喬介
<あらすじ>
新学期、大学3年生の主人公が新しい部屋に引っ越してくる。
1人の少女の瞳がその様子を隣の部屋のドアスコープから捉えている。
引っ越しが終わると主人公はまず父の遺影が入った写真立てを本棚の上に置く。翌日、隣の部屋から男性の怒号が聞こえてきて、主人公は騒音に悩まされる。
驚き、恐怖、落胆、好奇心で壁に耳をあて隣の部屋の騒音を聞いてみると、誰かに怒っている様子だった。
しかし、相手の声は聞こえてこない。
大学で、引っ越しを手伝ってもらった友人に騒音のことを相談する主人公。家に帰って賃貸の管理会社に電話をするが、一向に事態は収まらなかった。
もう我慢ならないと主人公は友人にLINEして翌日2人で直接クレームを言いに行く。勇気を振り絞って隣の部屋のインターホンを押す主人公。
すると、扉を開けて出てきたのは少女だった。痩せ細った全身がアザだらけの。
見知らぬ少女を主人公は部屋に招き入れる。警察に通報することも考えたが、これは半分誘拐にもなるのではないかと友人といろいろ話すと、通報できずにいた。
主人公は少女を外の世界へ連れ出す。
図書館に連れていき、自分が好きだった絵本の『みにくいアヒルの子』を見つけて、少女に読み聞かせると気に入ったらしく、その他にもいろいろな絵本を読み聞かせてあげる主人公。
友人は学童のバイトをしており、少女を連れていき、いつも面倒を見ている子供達と一緒に遊ばせる。ドッジボールに入る少女。全然ボールが取れない少女を見て、観戦していた小学6年生の女子たちが可愛がって教えてあげる。
友人はまるでこのままずっと一緒にいて親にでもなろうとしている主人公にこの生活は長くは持たないと忠告するが、主人公は聞く耳を持たない。
少女のいない生活にスッキリしていた虐待男の部屋に来た離婚した元妻が、行方不明となった少女を必死に探し始めていた。
警察も動くようになり、自分の部屋に尋ねてきて、少女が捜索されていることに気づく主人公。友人と話をして、このまま少女を引き渡してもいい結果になるとは限らないと思い、少女を隠し通すと決める。
ある日少女が図書館に行きたいと言うと、主人公はそれを拒否する。少女がドアを開けて1人で行こうとすると、主人公は無理やり止める。怖くて泣いてしまう少女。謝って抱きしめる主人公。主人公も友人もどうしても部屋にいれない状況で、少女はどうしても『みにくいアヒルの子』がもう一度読みたくて、一人で外へ出かけてしまう。
目の前で虐待男の部屋の扉が開く。ぞっとして動けなくなる少女。
なんとかアパートの横のゴミ捨て場の後ろに隠れてやり過ごすが、部屋に入るところでグッと腕を掴まれる。後ろを振り向くと掴んでいたのは虐待男の元妻だった。
元妻は主人公の必死の頼みに応じて1日の猶予を与える。主人公はその1日で少女と遊園地へ出かける。
しかしだんだんと元妻の言葉が頭をよぎる。「あなたとこの子にはなんの血のつながりもないでしょ」主人公は少女と出会った意味を改めて自分に問いかける。
この子が幸せになるためには、一体どうすればよいのだろうか。

LIFE IS
石原 空
<あらすじ>
中学二年生の蔵井春はクラスの美人、潮明花に恋をしていた。
お笑いを共通点とし、二人 の関係は良好、親友の伊達太とも楽しく過ごし春は現状に満足していた。故に明花に気持ちを伝えずにいた。
文化祭を目前としたそんな時、藤岡修平が転校してくる。
端正な顔立ち、運動に勉強も優秀 ですぐさまクラスの人気者に。
修平の登場で春と明花の関係は変化していく。
かつての関係に戻りたい春は唯一の繋がりであるお笑いに目をつけ、大会に太と出場するが修平にネタを一つ盗まれ敗北。
さらに明花との交際を聞かされ完全に敗北する。
三年生になった春と太は、お笑い大会以降ファンだという千葉ひかりと同じクラスにな る。
明るいひかりと接していくうちに明花の事が薄れていく春。ひかりも優しい春に惹かれていく。
そんな時、明花が学校に来ていないと耳にする。何かするべきなのか悩むが、お節介かと 何もせずにいる春。
そんな春を見てひかりは、助けるべきだと提案する。
ひかりに背中を押され、事情を調べると明花がいじめられていた事が発覚。さらに、その原因に修平が関わっている事がわかる。
再び対立した春と修平は、新入生歓迎会でお笑いで戦うことに。
この戦いを明花に見届けて欲しいと感じた春は、またひかりに背中を押され明花の元へ。
事情を聞くと学校が怖くなってしまったという明花。克服するために夜の学校に忍び込む 春と明花。
春のおかげで精神的な縛りから解き放たれた明花と修平を倒すと約束をする春。
新入生歓迎会当日。先にネタを披露する修平。
それを見て不安を抱く春と太だがひかりの言葉で決意を固める。
そして本番。舞台に上がる春と太。客席の明花の想いも背負いネタをし、見事修平に勝利する。
修平との決着をつけた春はひかりの元を訪れる。
ひかりが春に惹かれるのと同じように、幾度と背中を押してくれたひかりに心惹かれていた春は、自分の想いを告げ、結ばれる。
結ばれた春とひかりは、友人の太と楽しく笑うのだった。

君は天然色
斉藤 球
<あらすじ>
鎌倉に住む女性と旅行にきた男の物語。
冬の冷たい風がふく海に似つかわしくない会話。
どこか血が通ってないようなところがある主人公の心はいつも冷たく凍っている。
偶然浜辺で出会った男女。歳の離れた二人がする会話はいつもどこかかみ合わない。
二人は一度別れもう二度と会うことはないと思われたが、奇妙な状況で再開する。
お互いに生活することで得た幸福、安心できるばしょ。やがて生じる軋轢。亀裂。徐々に離れていく二人の心の距離は次第に大きくなっていく。
彼らがともにいることで何が存在するのか。
生きることは何なのか。
長い時間の中で出会い別れまた出会いを繰り返すこと。
朝の海岸。誰もいない砂浜で一人海を眺める僕。一人の女性が歌を口ずさみながら、波打ち際を歩いている。
朝焼けの海で出会った二人はやがて朝食をともにする。彼らは一度別れるが、すぐに再開する。しかし彼らはもう出会った頃の純粋な気持ちはない。
やがて時が過ぎ彼女が妊娠する。結婚前にマリッジブルーになるユリアと、独身の気分が抜けない僕が衝突し本音でぶつかり合う。
僕の友人の昌弘は僕に刺激を受けて交際している女性との結婚を決意する。
時が過ぎ、お互いに嫌悪感を抱き始めた時、ユリアの不満が爆発する。現実から逃避する僕。救いようのない男女が織りなす恋愛。
どこにでもいそうでどこにもいないそんな存在でいようとする人間の性に抗えずに恥をかく大人達。
お互いの才能に惚れ込み魂を寄せ合う二人の前には、常に年齢という大きな壁が立ちはだかり、その度に立ち止まる。
鎌倉の海辺をゆったり歩いたりして穏やかな時間が流れている時もあれば、激しい口論により、時間の流れが物凄く進む時もある。
一人の女性が新たな命を宿すことによって今までとは気持ちの大きな変化が生じ、その変化に男性はすぐに適応することができない。
男はいきなり背負うことになる責任から逃げ、結婚を前に姿をくらます。
不思議な雰囲気を持つ女性に振り回される主人公だが、主人公自身も肝心な時になると、現実から逃げ出す癖がある。

月と太陽
荒井 媛子
<あらすじ>
アサヒとツキトが 6 歳の頃に河川敷で保護した子猫、その子猫は目が見えずに誰かが世話をしてあげないと死んでしまいそうなほど衰弱していた。アサヒが「私が面倒を見る」と言い張り、飼うことを許してもらった。
懸命にお世話をしていたアサヒだがある雪の日にユウカから誘われ雪遊びに出かけてしまう。アサヒがいなくなったことで不安になった盲目の子猫はアサヒを追いかけ外に出ていってしまう。子猫がいないことを知らされ飛び出て探しにいくアサヒ。ツキトが走って探しているとアサヒが道路の脇で突っ立っているのを見つける。アサヒの前には動かなくなった子猫の横たわった姿。泣きじゃくるアサヒに次は守ると約束をするツキト。
中学生になり、勉強のできないアサヒは夏休みの補修をかけた追試が決定しツキトに縋る。ツキトがつきっきりで家庭教師として教えることで夏休みの補修を回避する。夏休みになり仔猫を見つけるアサヒとツキト、妙にアサヒに懐かれ一時的に保護しようと連れて帰る。然し葛藤しながらも子猫を他の誰かに育ててもらえるように公園に返しに行こうとする。ツキトとの約束を思い出し飼うことの覚悟を決めるアサヒ。
学年が上がり、ツキトに負けるのは嫌だとツキトと同じ高校を目指し受験勉強に励むアサヒとツキト。受験当日頭痛や目眩に襲われながらも試験を終えると、安堵の息とともにツキトの前で倒れるアサヒ。病院では白血病の診断を受ける。長期間の入院及び治療を受けることになるがドナーとしてツキトが血液の型が一致し、治療に向かうアサヒ。一時的な外出許可がでたアサヒをツキトが連れ出した場所は第一志望校。受験結果は第一志望校の繰り上げ合格により、ツキトと同じ学校の制服を着た高校 1 年生になる。

魔法に噛まれて
楯川 彩乃
<あらすじ>
大学生の海戸陸は幼い頃に両親を亡くしている。
家族3人で大型遊園地ジャッキーランドに行った思い出をとても大事にしており、その際キャラクターのジャッキーにもらったコインのついたペンダントを肌身離さず首にかけている。
ジャッキーランドのキャラクターであるジャッキーはハート形の耳を持つピンクのネズミである。
ある日陸は就寝中にネズミに噛まれ傷を負う。傷は痛まないものの消えない違和感を感じながら過ごす日々。
大学の友人であり都市伝説オタクの比濁アキラに見てもらうがたいしたことは無いと言われる。
ジャッキーランドがいつものように閉園時間を迎えた頃、園内の城で男が不審死を遂げる。
丁度その頃、陸の傷口は脈打つように痛み始める。思わず傷口を押さえた陸の手には発光する液体がべっとりと付着する。
さらに痛みは増し、陸の頭部にはネズミの耳が生える。
陸は翌朝朗に相談する。生きたキグルミであるジャッキーに深夜お願いをすると、魔法で何でも叶えてくれるという都市伝説を頼り、陸は深夜のジャッキーランドに忍び込む。
暗い園内を歩くうち、アキラは光るステッキを武器にと手に取る。
園内を徘徊する海賊たちに見つかりそうになった二人は、大慌てでジャングルに逃げ込む。
海賊たちは侵入者をジャッキーに報告しに城へ向かう。
ジャッキーはジャミーという恋人がいながら、セクシーなプリンセスたちと浮気している。
プリンセスに腹を立てたジャミーは、魔女の本性をあらわし、プリンセスたちに毒入り林檎を食べさせる。林檎を食べたプリンセスたちはゾンビになってしまう。
陸たちはジャングルでインディアンに襲われる。何とか倒す二人。インディアンから隠れていたらしい、トムンーヤ島の原住民の少女ユナと出会う。
小学生の見た目をしているユナだが、実年齢は19歳である。ジャッキーの魔法で夜しか活動できず、その分成長が遅いのだという。
二人はユナと共にジャッキーを倒すと決意する。
毎日ジャッキーを倒す機会をうかがっていたユナは三人でジャッキーを奇襲する作戦を立てる。三人は城の最上階に閉じ込められているドラゴンの開放を目指す。
作戦通りにはいかず、ワンワールドを唱える子供たちやゾンビ化したプリンセス、魔女になったジャミーに一行は襲われる。
三人はジャッキーに勝利し、ジャッキーランドを手に入れる。陸は、来場者にジャッキーランドを一生の思い出にしてもらうため、平和な王様になる道を選ぶ。