アキラ
須賀 彩夏
<あらすじ>
小説家のアキラは、妻子がありながら、一回り若い真由美と不倫関係にあり、朝帰りの日々を繰り返している。
ある日、高校時代の同級生の永野と再会する。クスリを久しぶりにやらないかという永野の誘いに軽い気持ちで乗ったアキラは、その日から永野の家に集まり、ジョイントを回し合うようになる。
執筆作業をしていると、編集者から新しく連載が決まったと連絡が来る。カメラマンの恵介と旅をし、写真と紀行文を連載するというものであった。恵介は、アキラと景子の大学時代の友人であり、久しぶりの再会を喜ぶ3人。あまり家に帰ってないことを知った恵介に諭されたアキラは、真由美に別れ話を切り出し、家庭に戻ろうとする。
仕事への道中、アキラは交通事故を起こしてしまう。大きな怪我は負わなかったものの、念のためにと連載は先送りになる。そんな中、真由美の妊娠が発覚する。精神的に追い込まれたアキラは引きこもるようになり、働かないアキラに滅入った景子は、アキラを罵るようになる。いつものように罵っていた景子は誤ってアキラを階段から突き飛ばしてしまう。
アキラが目を覚ますと病院のベッドの上であった。景子の必死の看病で退院したアキラは、相変わらず働けずに家にこもっていたが、これ以上家族に迷惑をかけまいと一人暮らしを始める。新しい生活で心機一転し、原稿用紙に向かうこともできるようになるアキラだったが、突然、恵介から余命宣告を受けたと連絡が来る。戸惑いながらもお見舞いに行くアキラだったが、死期が迫り、必死に生きようとする恵介の姿を見るのが怖くなり、次第に行かなくなってしまう。それに重ね、真由美から調停を申し立てられ、追い込まれたアキラは、再びクスリに手を出してしまう。
売人との約束に遅れて行ったアキラは、現行犯逮捕されてしまう。出所したアキラが恵介の見舞いに行く。やつれ、喋れなくなっている恵介だが、アキラを見ると微笑み、救われるアキラ。真由美の子とは血が繋がっていないことがわかり、区切りをつけたアキラは、景子の元に戻りたいと頭を下げると「おかえり」と迎え入れてくれる。
恵介の葬儀が行われている。紀行文の連載が叶わなかった恵介のために、恵介の写真を使って連載をさせてほしいと担当編集者に頼むアキラ。
アキラが原稿を書き上げる。書斎に佳奈が入ってくる。それを叱る景子だが、アキラは久しぶりに遊ぼうかと提案し、家族で出かけていく。書き終えた原稿には「崎村恵介に捧ぐ」と書いてある。
公式さん
萩野 あずみ
<あらすじ>
若い女性向けファッションブランド“b+”のマーケティング部に所属する松永瑞季(26)は、ある日、b+の公式SNSアカウントの中の人を任される。そんなとき、瑞季の弟である祥吾(20)の恋人・明日香(20)と出会う。明日香と瑞季はともに、ラミットストラディというアイドルグループの本望玲愛(22)のファンであり、特に明日香は SNSのフォロワー数も多い有名なファンだ。瑞季は、明日香への対抗心からか、b+のアカウントのフォロワー数を増やすことにはまり、同僚の内藤(34)と共に作戦会議を 開く。
瑞季がひとりでオタ活をしていると、偶然明日香に会う。瑞季は静かに応援するタイプであったが、明日香の影響で能動的に応援する楽しさを知る。瑞季の投稿は意図しない形で拡散され、結果フォロワー数は増加する。ファッションイベントに参加するなど仕事は順調であったが、一方でSNS上の否定的な意見に悩むように なる。
瑞季は明日香とラミットストラディの握手会へ行く。しかし当日になって、新型コロナウイルスの流行により握手会の中止が発表される。コロナの影響は仕事にも及び、テレワークが始まる。ネット広告に力を入れることになり、玲愛をCMキャラクターに起用した広告を撮影する。CMは賛否両論であったが、瑞季は肯定的な意見しか見ようとしない。
CMをきっかけに、ラミットストラディのライブ衣装のプロデュースをb+が担当することになる。ライブ後、瑞季は迷惑なファンに絡まれていた玲愛を助け、はじめて二人きりで話す。瑞季は、玲愛のイメージとは異なる弱い面を知る。
b+のアカウントが凍結される。瑞季はSNSから解放され、どこか安堵する。しかし、明日香や内藤、祥吾と話すうちに、このまま黙っていてはいけないと思うようになる。瑞季は内藤の助けを得て、ライブ配信を行う。公式アカウントの中の人であり、松永瑞季という個人である自分の気持ちを正直に話す。
みにくいアヒルの親
中野 喬介
<あらすじ>
新学期、大学3年生の主人公が新しい部屋に引っ越してくる。
1人の少女の瞳がその様子を隣の部屋のドアスコープから捉えている。
引っ越しが終わると主人公はまず父の遺影が入った写真立てを本棚の上に置く。翌日、隣の部屋から男性の怒号が聞こえてきて、主人公は騒音に悩まされる。
驚き、恐怖、落胆、好奇心で壁に耳をあて隣の部屋の騒音を聞いてみると、誰かに怒っている様子だった。
しかし、相手の声は聞こえてこない。
大学で、引っ越しを手伝ってもらった友人に騒音のことを相談する主人公。家に帰って賃貸の管理会社に電話をするが、一向に事態は収まらなかった。
もう我慢ならないと主人公は友人にLINEして翌日2人で直接クレームを言いに行く。勇気を振り絞って隣の部屋のインターホンを押す主人公。
すると、扉を開けて出てきたのは少女だった。痩せ細った全身がアザだらけの。
見知らぬ少女を主人公は部屋に招き入れる。警察に通報することも考えたが、これは半分誘拐にもなるのではないかと友人といろいろ話すと、通報できずにいた。
主人公は少女を外の世界へ連れ出す。
図書館に連れていき、自分が好きだった絵本の『みにくいアヒルの子』を見つけて、少女に読み聞かせると気に入ったらしく、その他にもいろいろな絵本を読み聞かせてあげる主人公。
友人は学童のバイトをしており、少女を連れていき、いつも面倒を見ている子供達と一緒に遊ばせる。ドッジボールに入る少女。全然ボールが取れない少女を見て、観戦していた小学6年生の女子たちが可愛がって教えてあげる。
友人はまるでこのままずっと一緒にいて親にでもなろうとしている主人公にこの生活は長くは持たないと忠告するが、主人公は聞く耳を持たない。
少女のいない生活にスッキリしていた虐待男の部屋に来た離婚した元妻が、行方不明となった少女を必死に探し始めていた。
警察も動くようになり、自分の部屋に尋ねてきて、少女が捜索されていることに気づく主人公。友人と話をして、このまま少女を引き渡してもいい結果になるとは限らないと思い、少女を隠し通すと決める。
ある日少女が図書館に行きたいと言うと、主人公はそれを拒否する。少女がドアを開けて1人で行こうとすると、主人公は無理やり止める。怖くて泣いてしまう少女。謝って抱きしめる主人公。主人公も友人もどうしても部屋にいれない状況で、少女はどうしても『みにくいアヒルの子』がもう一度読みたくて、一人で外へ出かけてしまう。
目の前で虐待男の部屋の扉が開く。ぞっとして動けなくなる少女。
なんとかアパートの横のゴミ捨て場の後ろに隠れてやり過ごすが、部屋に入るところでグッと腕を掴まれる。後ろを振り向くと掴んでいたのは虐待男の元妻だった。
元妻は主人公の必死の頼みに応じて1日の猶予を与える。主人公はその1日で少女と遊園地へ出かける。
しかしだんだんと元妻の言葉が頭をよぎる。「あなたとこの子にはなんの血のつながりもないでしょ」主人公は少女と出会った意味を改めて自分に問いかける。
この子が幸せになるためには、一体どうすればよいのだろうか。
LIFE IS
石原 空
<あらすじ>
中学二年生の蔵井春はクラスの美人、潮明花に恋をしていた。
お笑いを共通点とし、二人 の関係は良好、親友の伊達太とも楽しく過ごし春は現状に満足していた。故に明花に気持ちを伝えずにいた。
文化祭を目前としたそんな時、藤岡修平が転校してくる。
端正な顔立ち、運動に勉強も優秀 ですぐさまクラスの人気者に。
修平の登場で春と明花の関係は変化していく。
かつての関係に戻りたい春は唯一の繋がりであるお笑いに目をつけ、大会に太と出場するが修平にネタを一つ盗まれ敗北。
さらに明花との交際を聞かされ完全に敗北する。
三年生になった春と太は、お笑い大会以降ファンだという千葉ひかりと同じクラスにな る。
明るいひかりと接していくうちに明花の事が薄れていく春。ひかりも優しい春に惹かれていく。
そんな時、明花が学校に来ていないと耳にする。何かするべきなのか悩むが、お節介かと 何もせずにいる春。
そんな春を見てひかりは、助けるべきだと提案する。
ひかりに背中を押され、事情を調べると明花がいじめられていた事が発覚。さらに、その原因に修平が関わっている事がわかる。
再び対立した春と修平は、新入生歓迎会でお笑いで戦うことに。
この戦いを明花に見届けて欲しいと感じた春は、またひかりに背中を押され明花の元へ。
事情を聞くと学校が怖くなってしまったという明花。克服するために夜の学校に忍び込む 春と明花。
春のおかげで精神的な縛りから解き放たれた明花と修平を倒すと約束をする春。
新入生歓迎会当日。先にネタを披露する修平。
それを見て不安を抱く春と太だがひかりの言葉で決意を固める。
そして本番。舞台に上がる春と太。客席の明花の想いも背負いネタをし、見事修平に勝利する。
修平との決着をつけた春はひかりの元を訪れる。
ひかりが春に惹かれるのと同じように、幾度と背中を押してくれたひかりに心惹かれていた春は、自分の想いを告げ、結ばれる。
結ばれた春とひかりは、友人の太と楽しく笑うのだった。
君は天然色
斉藤 球
<あらすじ>
鎌倉に住む女性と旅行にきた男の物語。
冬の冷たい風がふく海に似つかわしくない会話。
どこか血が通ってないようなところがある主人公の心はいつも冷たく凍っている。
偶然浜辺で出会った男女。歳の離れた二人がする会話はいつもどこかかみ合わない。
二人は一度別れもう二度と会うことはないと思われたが、奇妙な状況で再開する。
お互いに生活することで得た幸福、安心できるばしょ。やがて生じる軋轢。亀裂。徐々に離れていく二人の心の距離は次第に大きくなっていく。
彼らがともにいることで何が存在するのか。
生きることは何なのか。
長い時間の中で出会い別れまた出会いを繰り返すこと。
朝の海岸。誰もいない砂浜で一人海を眺める僕。一人の女性が歌を口ずさみながら、波打ち際を歩いている。
朝焼けの海で出会った二人はやがて朝食をともにする。彼らは一度別れるが、すぐに再開する。しかし彼らはもう出会った頃の純粋な気持ちはない。
やがて時が過ぎ彼女が妊娠する。結婚前にマリッジブルーになるユリアと、独身の気分が抜けない僕が衝突し本音でぶつかり合う。
僕の友人の昌弘は僕に刺激を受けて交際している女性との結婚を決意する。
時が過ぎ、お互いに嫌悪感を抱き始めた時、ユリアの不満が爆発する。現実から逃避する僕。救いようのない男女が織りなす恋愛。
どこにでもいそうでどこにもいないそんな存在でいようとする人間の性に抗えずに恥をかく大人達。
お互いの才能に惚れ込み魂を寄せ合う二人の前には、常に年齢という大きな壁が立ちはだかり、その度に立ち止まる。
鎌倉の海辺をゆったり歩いたりして穏やかな時間が流れている時もあれば、激しい口論により、時間の流れが物凄く進む時もある。
一人の女性が新たな命を宿すことによって今までとは気持ちの大きな変化が生じ、その変化に男性はすぐに適応することができない。
男はいきなり背負うことになる責任から逃げ、結婚を前に姿をくらます。
不思議な雰囲気を持つ女性に振り回される主人公だが、主人公自身も肝心な時になると、現実から逃げ出す癖がある。
月と太陽
荒井 媛子
<あらすじ>
アサヒとツキトが 6 歳の頃に河川敷で保護した子猫、その子猫は目が見えずに誰かが世話をしてあげないと死んでしまいそうなほど衰弱していた。アサヒが「私が面倒を見る」と言い張り、飼うことを許してもらった。
懸命にお世話をしていたアサヒだがある雪の日にユウカから誘われ雪遊びに出かけてしまう。アサヒがいなくなったことで不安になった盲目の子猫はアサヒを追いかけ外に出ていってしまう。子猫がいないことを知らされ飛び出て探しにいくアサヒ。ツキトが走って探しているとアサヒが道路の脇で突っ立っているのを見つける。アサヒの前には動かなくなった子猫の横たわった姿。泣きじゃくるアサヒに次は守ると約束をするツキト。
中学生になり、勉強のできないアサヒは夏休みの補修をかけた追試が決定しツキトに縋る。ツキトがつきっきりで家庭教師として教えることで夏休みの補修を回避する。夏休みになり仔猫を見つけるアサヒとツキト、妙にアサヒに懐かれ一時的に保護しようと連れて帰る。然し葛藤しながらも子猫を他の誰かに育ててもらえるように公園に返しに行こうとする。ツキトとの約束を思い出し飼うことの覚悟を決めるアサヒ。
学年が上がり、ツキトに負けるのは嫌だとツキトと同じ高校を目指し受験勉強に励むアサヒとツキト。受験当日頭痛や目眩に襲われながらも試験を終えると、安堵の息とともにツキトの前で倒れるアサヒ。病院では白血病の診断を受ける。長期間の入院及び治療を受けることになるがドナーとしてツキトが血液の型が一致し、治療に向かうアサヒ。一時的な外出許可がでたアサヒをツキトが連れ出した場所は第一志望校。受験結果は第一志望校の繰り上げ合格により、ツキトと同じ学校の制服を着た高校 1 年生になる。
魔法に噛まれて
楯川 彩乃
<あらすじ>
大学生の海戸陸は幼い頃に両親を亡くしている。
家族3人で大型遊園地ジャッキーランドに行った思い出をとても大事にしており、その際キャラクターのジャッキーにもらったコインのついたペンダントを肌身離さず首にかけている。
ジャッキーランドのキャラクターであるジャッキーはハート形の耳を持つピンクのネズミである。
ある日陸は就寝中にネズミに噛まれ傷を負う。傷は痛まないものの消えない違和感を感じながら過ごす日々。
大学の友人であり都市伝説オタクの比濁アキラに見てもらうがたいしたことは無いと言われる。
ジャッキーランドがいつものように閉園時間を迎えた頃、園内の城で男が不審死を遂げる。
丁度その頃、陸の傷口は脈打つように痛み始める。思わず傷口を押さえた陸の手には発光する液体がべっとりと付着する。
さらに痛みは増し、陸の頭部にはネズミの耳が生える。
陸は翌朝朗に相談する。生きたキグルミであるジャッキーに深夜お願いをすると、魔法で何でも叶えてくれるという都市伝説を頼り、陸は深夜のジャッキーランドに忍び込む。
暗い園内を歩くうち、アキラは光るステッキを武器にと手に取る。
園内を徘徊する海賊たちに見つかりそうになった二人は、大慌てでジャングルに逃げ込む。
海賊たちは侵入者をジャッキーに報告しに城へ向かう。
ジャッキーはジャミーという恋人がいながら、セクシーなプリンセスたちと浮気している。
プリンセスに腹を立てたジャミーは、魔女の本性をあらわし、プリンセスたちに毒入り林檎を食べさせる。林檎を食べたプリンセスたちはゾンビになってしまう。
陸たちはジャングルでインディアンに襲われる。何とか倒す二人。インディアンから隠れていたらしい、トムンーヤ島の原住民の少女ユナと出会う。
小学生の見た目をしているユナだが、実年齢は19歳である。ジャッキーの魔法で夜しか活動できず、その分成長が遅いのだという。
二人はユナと共にジャッキーを倒すと決意する。
毎日ジャッキーを倒す機会をうかがっていたユナは三人でジャッキーを奇襲する作戦を立てる。三人は城の最上階に閉じ込められているドラゴンの開放を目指す。
作戦通りにはいかず、ワンワールドを唱える子供たちやゾンビ化したプリンセス、魔女になったジャミーに一行は襲われる。
三人はジャッキーに勝利し、ジャッキーランドを手に入れる。陸は、来場者にジャッキーランドを一生の思い出にしてもらうため、平和な王様になる道を選ぶ。
僕と青い屋根の住人
佐々木 尭
<あらすじ>
羽毛田心人(17)は、警察官の父の羽毛田傑(54)と確執があり、学校ではいじめられ、窮屈な日常を送っていた。ある日、いじめグループ・稲本慎(17)らの指示で、ホームレスの小屋に火をつけろという命令をされたことで、ホームレスの飯岡貴人(54)と重村薫(53)に出会う。心人は、自分を認めてくれる飯岡の優しさに惹かれる。飯岡も居心地の良さを感じ、二人は交流を深めていく。重村は、放火をしようとしていたところを目撃していたため、嫌悪感を抱いていたが、心人を見ていているうちにその思いは薄らぎはじめる。その一方で家では、傑の父親の姿に疑問が生じ反抗的な態度を取り、二人の溝はさらに深まるばかり。
そんな中、飯岡は何者かによって殺害される事件が起こる。いじめグループによって放火の現場を撮られていた心人は、飯岡殺害の犯人として取調べを受けることになる。放火のことを知りながらも隠していた傑は、警察官の姿と父親との姿で思い悩んでいく。心人は重村の証言もあり解放される。重村にお礼を言いに行くと、このままだと飯岡が無縁仏になってしまうことを告げられ、飯岡と重村のためにも親族を探すことを決意する。ボランティアの男性、ホームレスの人々、床屋の店主などに話を聞いていくにつれ、少しずつ飯岡の人間性が浮かび上がる。しかし、親族の手がかりは見つからない。そんな時、心人は一人で働いていた重村が過労で倒れるところを目撃する。重村は病院に運ばれるも一命を取り留める。そこで、重村から秘密にしていた飯岡の過去を明かされることになる。
傑も心人のためにも、犯人の手がかりや飯岡のことを単独で捜査を始める。捜査中に自分と飯岡との意外な共通点を知ることになる。そして、飯岡の慰留品から親族の手がかりとなる連絡先が手に入る。これを機に、心人は自分たちが望む答えに大きく一歩近づいていく。親子の距離もまた近づいていく—
ファミリー・フレンズ
江﨑 祐依
<あらすじ>
受験に落ちた悲しみよりも彼氏に振られた悲しみが勝り、全てにやる気を無くしてしまう友璃(18)。そんな友璃を心配する母・麻友(50)と迷惑がる弟・俊(16)。家族に八つ当たりをする友璃だったが、友璃の態度を見かねた父・雄二(54)に予備校で1年間浪人することを提案され、予備校の寮に入る決意をする友璃。
予備校に入ると厳しい先生・小林(37)がクラスの受け持ちになり、ピリついた空気に不安になる友璃。隣に座っていた雅也(18)とその隣に座った栞(18)との出会いから予備校生活が変化していく。
携帯ゲームに夢中になる雅也と、自分第一で見た目を気にしている栞とやるべきことが分からず、やる気のない友璃。栞の高校時代の同級生である麗奈(18)と知り合い、慶応大学を目指すきっかけを話す麗奈の言葉に突き動かされ、憧れを抱く友璃。自分も同じ慶応大学を目指すと麗奈に協力してもらいながら勉強に奮闘する。
目標に向かってがむしゃらに頑張っている 2 人の姿を見ていた栞は、志望するものが何もない自分に嫌気が指し、受験から遠ざかろうとする。男子生徒と話して遊んでいる栞を心配していた麗奈は、栞と男子生徒がいちゃついているのを目撃し激怒する。喧嘩してしまう麗
奈と栞だったが、友璃の提案により仲直りする。
気合いを入れて 2 人と勉強に励む友璃だったが徐々に成績も上がらなくなり、周りの成績と自分の成績を比べて精神不安定になる。
無意識に線路前に立っていた時、桜田塾を辞めた雅也と会って話したことで正気に戻る友璃。その後精神不安定が続いた友璃は、無意識に自殺出来る場所へと足が向かい、気づかぬうちに寮で気絶してしまう。芹香(19)に助けられ、話しているうちに段々と心が救われる友璃。精神も安定し、家族の応援も受け取って受験に挑む友璃。
予備校で出会う人たちに影響を受け、変化を遂げながら成長していく女浪人生の物語。
朔の憂鬱 -なにもないがいっぱい-
田村 星潤
<あらすじ>
度重なる災害を経て都市機能の分散や業務のデジタル化が進み、「都会」が意味を成さなくなった近未来。前橋南高校の教師である桑原麻子は授業中に萩原朔太郎を読んだことが無いと生徒に話し、馬鹿にされる。麻子は大学の友人である神山海斗から朔太郎の詩集を借りて勉強を始めるが、朔太郎が好きだという教え子の小島空良に苛立ちをぶつけられる。
その後、麻子は小島から前橋文学館を紹介される。文学館を訪れる麻子。その帰りに小島と話す。その中で麻子は故郷の埼玉へ帰っていないことを語る。東京の大学を目指す小島は、田舎へのコンプレックスと都会への憧れという朔太郎と共通する感情を持っていた。麻子は小島の通う塾で働く海斗から「小島は県内進学をする予定だ」と聞かされる。
暫くした後、小島は親が県外へ出ることを許さなかったと麻子に話す。小島の心情を理解してやろうとする麻子。そして、小島は学校へ来なくなる。麻子は同僚の教師や海斗に小島を救う方法を相談するが、取り合ってくれない。憂鬱を募らせる麻子は、退職を決意する。
新年を迎え、麻子は海斗が趣味で企画する写真展の手伝いを依頼される。麻子は帰宅する海斗を見送った後、利根川へ身を投げようとする。しかし、通りがかった小島に止められる。小島は自分の為に心を病んでしまった麻子を思い「勉強する」と約束する。麻子は海斗の写真展を手伝うことにする。麻子の体験と朔太郎の詩を基に「前橋」の街を 写真に撮っていく海斗。しかし故郷の前橋を愛する故、麻子や朔太郎が感じた前橋の居心地 の悪さが表現できない。
高校の卒業式に招待される麻子。そこで小島が県内進学したことを知る。麻子は自宅で朔太郎の詩を読み返し、泣く。麻子、海斗を連れて前橋の何も無い様を写真に撮る。それが海斗の理想とする写真であった。
春。麻子は前橋を去ることにする。海斗に見送られ電車に乗るが、気が変わり小島に会いに行く。自分の撮った写真を小島に託し、再び麻子は去っていく。(終)
探す
澤栗 ひより
<あらすじ>
中原遊馬(15)は、なぜか学校で人気者の東雪(15)に告白され、付き合うことになる。 全く乗り気ではない遊馬。
ある日、遊馬は雪からの提案で長かった髪をバッサリ切る。
雪はどうしてもと理由をつけ、 遊馬の髪を欲しがるも、ヘアドネーションの郵送に出した後だった。
その後、突然遊馬の前へ姿をあらわさなくなった雪を遊馬は探す。
雪がいたのは神社の神楽殿の中。楽しそうに「なにか」と話している。それは、遊馬の目に は見えないものだった。
しかも、遊馬が郵送したはずの髪を持っていて、それを食べている。
ショックを受けた遊馬だったが、その後全く姿を消した雪が気になり、雪を探しながら、雪が見えていたであろうものについて調べるようになる。
13年後、遊馬は妖怪博士と呼ばれメディアに出るほど、怪異などについて知識を蓄えていた。
雪を探して欲しいと頼んでいた探偵事務所の木下からの紹介により、遊馬は香川へ向かうことに。
香川では雪を知っていると言う探偵、飯島日乃と共に、雪の実家である神社に行く。
しかし、雪はいない上、荒れ放題の神社に、神主である東は自ら新興宗教を作り、それを10歳の娘カヅミに手伝わせていた。
東家に違和感を感じる日乃。神主が手入れしなくなった神社は、参拝者が途絶え、そこに居たはずの神が、神ではなくなっていた。
そして、カヅミがそれに祈ってしまったことから取り憑かれてしまっていた。神を鎮める作業を行った日乃。
カヅミとカヅミの母、鳴海を救う。 そこに突然、雪が帰ってくる。
13年前のことを問い詰める遊馬。
雪は、「なにか」たちを見るための力を得るために、「なにか」の助言により遊馬の髪を盗み 食べていた。
しかし、その力がなくなった今、もうなにも見えないと言う。
雪はカヅミの面倒を見ることと、神社をまた昔のように戻すと言う理由で、香川に残る。
遊馬は、香川を去る。
去る新幹線で、遊馬は自分が見えないはずのものが見えるようになっ ていることに気づく。
ゆうひが丘団地の決斗
久我 悠介
<あらすじ>
舞台は1960年代に建設された架空の公団住宅・夕日が丘団地。一時は1000人以上もの入居者を抱えるマンモス団地だったが、いまでは老朽化と住民の高齢化が進み、すっかり寂れてしまっている。
息子二人とそこに暮らしているシングルマザーのアヤは、次男のリツがマッチを盗もうとしたことをきっかけに、商店街のサンドイッチの売店で働く夏目という男と知り合う。
夏目のミステリアスな雰囲気に惹かれたアヤは積極的にアプローチするが、長男のイツキはそれが気に食わない様子。
ある日たまたま夏目のマッチを手に入れたイツキは、なんとなくそれを使ってしまう。
リツはそれが夏目のものだと気づき、二人で返しに行くことになるが、その道中でリツが行方不明になる。
リツが夏目に殺されたという妄想にとりつかれたイツキは、悪友たちと一緒に夏目の部屋を監視する。
そんなことはつゆ知らず夏目に接近するアヤ。会話の中で、夏目の持っているカウボーイの絵柄のマッチは、彼にとって唯一の家族の思い出だったことが明かされる。
夏目の部屋を襲撃するイツキ。しかしカウボーイの恰好をした夏目に思わぬ反撃に遭う。
夏目は50年間一度も団地から出たことがない、団地そのもののような男だった。終わりゆく団地という時代に彼自身のフラストレーションが重なり、ついには爆発したのだ。
戦いの果てに決闘をすることになる夏目とイツキ。しかしその瞬間、老朽化した団地の棟が崩落し、二人は生き埋めになる。
そこで今まで姿を現さなかった住人たちが力を合わせて、ガレキから二人を助け出す。それが夕日が丘団地の最後に輝いた瞬間だった。
リツはあっさり発見され、団地を巡る狂騒は終わりを告げる。
数ヶ月後。ゴーストタウンのようになった団地。住む場所も思い出も失った夏目はさながら流浪するカウボーイのように団地から去っていく。
イツキはその背中を見送る。
ライフバトン
山西 洋平
<あらすじ>
成身高校。スポーツを極めた者たちが集まる高校。全国の様々なスポーツ界の帝王が集まる。
そこに松田拓海(16)と佐藤健太郎(16)が在校している。この学校では毎年全国規模の超大型な体育祭を行っている。
メインイベントである超部活対抗リレーでは優勝チームに賞金 2000万円が贈呈される。
リレーの参加条件は4人メンバーを集める事。訳ありで部活に所属していない二人は「 帰宅部」としてこのリレーに参加することを決意する。
拓海は幼い頃は運動が好きだった。しかし、いつも走りを教えてくれていた元ランナーの父親(松田和義)が病死。当時の勘は衰えてしまっている。
スポーツ高校という事もありそんな拓海をいじめる陸上部。体育祭にはそれぞれの部活の2軍が参加する。
陸上部の2軍は毎年優勝することが当たり前。学校の中でもカーストの頂点に居た。
そんな中、拓海以外の帰宅部を発見する健太郎。
それは、元陸上部2軍のメンバーでありその中でもリーダーだったと噂されている長塚智樹(16)であった。
初めは跳ね除けられてしまうが、健太郎と拓海の楽しそうな練 習姿を見て智樹の心は動く。
智樹は元々陸上部1軍、世界で活躍するほどの選手であったが、中学生の時に交通事故で足を怪我。プロが目指せなくなって荒れていた。
そんな話を聞いて拓海は「もう一度走る事を楽しんでほしい」と智樹を勧誘。3人になる。
智樹は前から誘っているというお金持ちの引きこもり中田一志(16)の元に訪れる。引きこもりという事を聞いた智樹は一志の部屋のドアをけ破り外に出す。
初めは驚く一志であったが、3人の熱に圧倒され外に出してくれた感謝と共にリレーに参加することを決意。一志の経済力で大型グラウンドと 機材を借用。
智樹の技術力で本格的にリレーの練習が始まる。
すると今年の体育祭で1軍が参加するとの噂が。4人は優勝出来るのか・・・
補給兵
金子 準
<あらすじ>
1941年末に開始されたマレー作戦で自動車化歩兵として輸送の任務についていた亀山は前線への輸送の命令を受ける。その任務は危険を伴うものであった。また、同じし徴兵が遊撃隊に急襲されたのを知り不安になる。亀山達はパトパハトにいる青葉支隊へ補給の任務のためクアラルンプールを夜中に発つ。
道中、橋が壊されている川を前に工兵隊を待つことになる。その際、青葉支隊がクルアンへ移動の命令が下されたと小耳に挟む。翌日、中継点であったムアル駐屯地にて情報を集める。聞き取りをしたところクルアンへ向かったという情報を聞くが亀山達はパトパハトへ向かうことを決める。
ジャングルを進む亀山達は敵のしかけたグレネード地雷に掛かり部下が怪我を負う。その晩、亀山たちが休息をとっていると上空に敵の爆撃機が現れる。見つかってしまった亀山達は爆撃に合い散り散りになる。
翌日、部下の一人と合流した亀山はトラックの中から武器をもってパトパハトに徒歩で向かうことを決める。一方、中尉側はトラックを確保し任務を続行するが敵の襲撃に合い木に激突する。その夜、中尉一行は空腹に耐えかね生で蛇を食べる。一方、亀山は部下と話しをして物資を届けることを改めて決意する。
翌朝、中尉一行の目の前に虎が現れるがなんとか逃げる。しかし、とうとう部下の一人が死ぬ。そして、中尉は目的地を変更する。亀山達は徒歩で進んで行くと川に出る。そこで敵兵に見つかり 銃撃戦が起こる。部下が死に亀山は撃たれて川に流される。亀山は岸に上がると中尉のトラックを見つける。しかし、その近くで中尉一行が死んでいるのを見つける。亀山は悲しみながらもトラックで輸送する。
青葉支隊の手前に敵が駐留している。その中を撃たれながらもトラックで駆け抜け朝方、物資の輸送の任務を完了し気絶する。 戦後、亀山は任務のことを思い出し平和を願う。
月に叢雲花に風
長尾 光玲
<あらすじ>
自分が高校生の時に犯してしまった罪と向き合いながら今を生きている伊上大樹(23)が母から受け継いだ花屋をしながら、訪れる人の悩みも解決していく。 小さなころから大樹が住んでいる街の幼稚園で働くことになった富田由夏(21)と出会いから、自分と向き合うようになる。
少しずつ大樹に惹かれていく由夏。大樹の親友の相葉亮が由夏に大樹の過去を話す。
高校生の頃、自分がいじめられている時に浅川美紀に助けてもらう。それをきっかけに二人は恋に堕ちるが、由紀は同じ学年の石田あやめにいじめられてしまう。
あやめが大樹に恋していたからである。由紀を守るためにあやめと付き合う大樹だが、持病もあり、精神的に限界だった由紀は飛び降り自殺をしてしまう。 実は由夏は中学生の頃に心臓を悪くしており、危機的状況になった時、由紀の心臓のドナーで助かっていた。
その際、自分が亡くなった時に大樹に渡してほしいと、由紀のご両親から預かっていた手紙をずっと持っていた。
そんなある日、由夏が倒れてしまう。その手紙を渡してほしいと亮に預けていた由紀。
倒れたことを亮が大樹に伝え、手紙を渡す。
走って大樹が会いに行くと、大事には至らず元気そうに母親の富田詩織(57)と笑っている姿がそこにある。
今の自と過去の自分が対面し、何よりも今が大事だということ、大切にしないといけないものに気付いていく、そんな物語。
春より先に、愛がきた
篠原 まい
<あらすじ>
平凡な日常を変えたいと思うが、夢も希望もなく、自分のやりたいことがんなんなのかさえわからぬ男子大学生、深見義長。そんな主人公義長が、ある日、道で、天使と出会い、目があったその瞬間、恋に落ちる。世界は天使と義長の二人きりになる。夢も希望もなかった義長の人生にふってわいた一つの希望、それは天使とお近づきなることだった。
さっそくとばかりに、天使が着ていた制服のカフェを見つけ出し、アルバイトを始める。これでもっと近くで天使が見れる!と浮かれる義長だったが、どうも天使の様子がおかしい。天使と近づく距離に比例して、次々に崩されて行く義長の天使理想像。思い悩む義長に訪れる不思議な体験。言うつもりがないことを言ってしまったり、言わなくていいことを言ってしまったり、どうしたんだ俺!しかし、そのおかげで再び近づく天使との距離。「やっぱり俺の天使は可愛い!」と片思いの春に浮かれる義長。初めての恋煩い、初めてのデート、初めてのキス?そして、初めての誘拐。ってさらわれるのは俺だって?!そこは拐われた天使を奪い返しに行くハートフルコメディにするべきだ、と思いつつも戸惑いと恐怖で怯える義長。
拐われた先で自称悪魔に出会い、思わぬところから天使の正体を明かされることとなる。天使の世界を救うため、天使への愛のため、俺は立ち上がる男、義長いっきまーす!天使のすっぴんに悶えたり、天使の私室へ初潜入しちゃったり、相変わらず天使に翻弄されつつも、世界を救うため天使に協力を求める。天使のために立ち上がったはいいが、巨大な犬に追いかけ回され怯える義長。そんな中親友からの急な遊びの誘い。悪魔によるとこの親友も何か裏があるみたいだが...。
そしてついに訪れる決戦の日。天使VS悪魔、天使VS天使?、俺VS??、愛のために立ち上がった男、義長は、愛する天使のため無事帰ってくることができるのか否か。
苦境の兄弟
山田 麗
<あらすじ>
自然豊かな日丸帝国。そこには偉大なる王と妃の間に生まれた将来有望な四人の兄弟がいた。冷静沈着な第一王子の漣、奥手だが頭の良い第二王子の翔、自由奔放な第三王子の樹里。そして、戦いに固執する王女の凛。
日丸帝国の王である慧は、淡帝国との戦いを計画しており、それは領土争いによるものとなっていた。凛は母である、日丸国の王妃を救えなかった過去から強くなりたいと思い、密かに剣術を極め、今回の戦いに備えていた。凛の侍女、澪 は敵国の淡帝国の兵士、和と密かに仲を深めており、この戦いで二人の仲は引き裂かれそう になるのだった。そのころ翔は王妃の死に疑問を抱き、自ら調べ、王妃が生きているのでは ないのかと考え始めていた。樹里の親しい友人、誠には何やら悪い影が見え始める。
戦いの日、それぞれの配置につく四人の兄弟たち。何事もなく戦いは勝利を収めるはずだった・・・。淡帝国に女将軍、真礼が現れ、彼女が率いる軍が日丸帝国をじわじわと攻めていくのであった。日丸帝国の国王が倒され、さらに誠がスパイとして入り込んでいたことで混乱する日丸帝国軍。凜は真礼の面影に疑問を持ちつつ、彼女が率いる軍に攻めていく。真礼の正体は、数年前に亡くなったはずの日丸帝国の王妃であった。淡帝国軍が有利に動くにつれ、明かされる日丸帝国と淡帝国の戦いの理由。四人の兄弟たち、そして和と誠の敵国の兵士たちも周りの状況に翻弄されながらも自分のやるべきことを見つけ始める・・・。
卒業できない
多賀 一貴
<あらすじ>
芸術学部で脚本を学ぶ田口。
田口は将来性のない夢見がちな脚本家志望である。先に卒 業した後輩行本と街をブラブラと歩き、「人生の意味みたいなものをつかみたいんだ」などと夢見がちなことを言う毎日を送っていた。
ある日、行本と公園で「夢が叶わないなら死にたいよね」などと話していると、目の前で今にも自殺をしようとしているくたびれた中年サラリーマン、山田猛に出会う。
自殺を止め、山田の行きつけの中華屋で事情を聞く田口と行本。山田は会社をクビになり、妻子にも逃げられ自分の人生に絶望していたのだ。
「昔は生きがいがあった。ロックに 生きていたんだ」と、ギタリストを自称し、熱海まで旅をしていた時代を回想する山田。
酔っぱらった山田は田口と行本に「熱海でお前らにロックな死にざまをみせてやる!」と提案する。
最初はためらっていたが、山田の中に「未来の自分」を見た田口は同行することを決断。行本を説得し山田と共に熱海に行くことに。
到着した熱海で山田のかつてのファンである旅館の女将幸恵に再会する。幸恵は三十年前に買った山田のCDを聞き続けていたのだ。
「俺のロックは生きていたんだ」 山田は自殺を取りやめ、もう一度ロックンローラーになることを田口と行本に宣言する。
最初は温かい目で見ていた田口だったが、そのあまりに無計画な生き方に「人生、そんなに甘くない」と山田に激高。
ショックを受けた山田は再び自殺を決意。旅館の屋上で半裸で自身の歌を歌い始める。
そこに山田の家族が到着する。「ロックじゃない山田の人生にも意味があった」と悟った田口は山田を説得し、自殺をやめさせることに成功する。
半年後、そこには無事に就職した田口と行本、そしてなぜかロックシンガーとして成功した山田の姿があった。
On your Mark.
田中 雅規
<あらすじ>
文明が滅び、荒廃してしまった世界。放射線を含んだ雨から逃れるように、人々は避難シェルター『シャッタードーム』の中での生活を強いられていた。公安警察に所属するも、うだつの上がらない毎日を送っている男ギンと同僚のクリムはある日、事件に巻き込まれ、翼の生えた少女ミカと出会う。しかし、人工知能AIのノアに追われているミカは彼らに連れて行かれてしまう。
ミカの身を案じるギンは決意の末、ミカの救出を決行する。ミカを救い出すも追われる身となったギンとクリム。
そんな彼らにレジスタンスのリーダーであるカレンが救いの手を差し伸べる。アジトで身を隠すミカはそこで一冊の画集を手に取った。
その画集 にはもう見ることのできなくなった、青空が描かれており、その光景に憧れを抱く。
一方、ミカの今後を考え、シャッタードームの外へ逃がす計画を立てるギン。その計画にクリムやカレン達も賛同するのであった。
計画当日、外へ唯一繋がっているイラニの塔へ侵入する。仲間が欠けていくなか、やっとの思いで頂上にたどり着く。
しかしクリムの裏切りによって計画は漏洩し、ノアによって阻まれてしまう。
そこでノアは、目的であったミカの体の乗っ取りを成功させる。 しかしギンの呼びかけでミカの自我が芽生え、ノアはミカへの乗っ取りに失敗する。
いつしか自身に人間の感情が芽生えていることを知ったノアはエラーを起こしてしまう。
ノアをシャットダウンさせようとするギン。回避するべくノアはギンの体に乗り移るも、ノアを道連れにギンは自ら命を絶つ。
崩壊していくシャッタードームを背に、大空へと羽ばたいていくミカ。人々はその姿に導かれ一歩を踏み出していく。
船のゆくさき
鈴木 梨央
<あらすじ>
小舟に乗って霧の深い川を下っている灯凛と蒼大。灯凛はこの時、舟がどこへ向かっているのか、蒼大が誰なのかわかっていなかった。
灯凛はいつの間にか、親友のキョウカと一緒に旅客船に乗っていた。船の中でソウタと出会う灯凛。ソウタはよく絵を描いていた。灯凛は彼と、彼の絵に興味を持った。彼の描いた赤い抽象画を見た時、炎のイメージが湧いた灯凛。そのイメージは嫌な感情を呼び起こし、吐き気を催すこともあった。客室では手品師がうさぎや人体の切断マジックを披露していた。キョウカは楽しそうに見ていたが、灯凛には合わず途中退室する。ソウタは具合の悪そうな灯凛を見、ボイラー室へ案内し灯凛を休ませる。
ある一室にうさぎ頭でスーツを着た男たちが集まっていた。キョウカがやってきて、四人でポーカーをはじめる。手品師はホールに人を集め、切断マジックと似た方法で人をどんどん殺していった。そして厨房に移動し、料理人の顔となり、殺した人々の肉を使って料理を作りはじめる。ポーカーをやっていたキョウカは圧勝し、嵐の中舵を取っている船長の元へ向かう。船の外では雪が降りはじめていた。
ソウタは過去の話をしようと、目が覚めた灯凛に自分の描いた赤い絵を見せた。灯凛は炎のイメージが湧かないように絵を見なかった。それがきっかけで揉めはじめ、灯凛の帰る場所についての口論にまで発展した。灯凛がソウタの頬を殴ると、溶けた柔らかいゴムのようにソウタの頬が欠けた。操り人形のように不自然に関節を曲げて倒れるソウタ。灯凛が焦っているとキョウカが駆けつけてきた。キョウカはソウタを助けるために、赤ワインと雪を取って来てと灯凛に言う。急いで駆け出し、灯凛がボイラー室のドアを開けた時、ボイラーが爆発し、ソウタとキョウカが炎に包まれる。
しかし、旅客船で起こったことはすべて灯凛の心が見せていた幻影だった。最悪な過去を追体験することで、灯凛は奇妙な船から抜け出すことができる。
夢物語
中島 樹音
<あらすじ>
目を覚ますアリス。そこは見知らぬ城の中だった。しかし、そんなアリスを元からの家族のように受け入れる城の住人たち。最初こそ戸惑うアリスだったが、暖かい家族に囲まれ、段々と城の生活に溶け込んでゆく。召し使いエドワードとも仲良くなり、楽しい毎日を過ごす。
城には美しい人魚が住んでいた。遠い国から来たと言う人魚。かわいそうだから逃がそうと言うアリスの友人、フランセス。しかしその計画は失敗に終わる。
王からの一途な愛を求める王女。魔女から定期的に買う薬により美貌を保っている。しかし、王女の努力に反して王の気持ちは覚めきっていた。王に言い寄られる召し使いラビ。忠誠を誓う王女に隠し事をすることになり困惑する。王の隠し事に気がつかない王女は、再び愛されるため、ユニコーンの血を飲み不老不死を手に入れようとする王女。
人魚はユニコーンを追い求める王女の手によって殺される。アリスはユニコーン捕獲のための囮にされ、大怪我をする。しかし魔女の手を借り、なんとか回復する。
人魚を失って悲しむフランセスを元気付けるため、城にホワイトライオンがやってくる。ライオンの調教師ルシアンと仲良くなるフランセス。ほのかな恋心が芽生えるフランセス。表では紳士的だが、本当は軽薄な調教師。フランセスをもてあそぶ調教師の気を引こうとした結果、ライオンも調教師も失ってしまう。
気が触れるフランセス。アリスの説得も虚しく、ついに自害してしまう。浮気する王に耐えきれず、自分もろとも王を毒殺する召し使いラビ。愛する王と信頼していた召し使いラビを一度に失い、ショックを受け火事を起こし亡くなる王女。
この世界が本物ではないと気が付いたアリス。召し使い達を次々に殺害する。最終的に召し使いエドワードを刺し殺し、自害する。
目が覚める。いままで夢を見ていたアリス。
サイト
片山 力丸
<あらすじ>
栄えている地上街とは別に、日の光すら当たりにくい、都市の地下に存在する法律もうまく機能していない貧民のみが住う場所がある。その貧民街に住んでいる一人の青年アルは、仕事に就かず毎日盗みを働いて暮らしている。しかし、アルは根が優しく、自分が貧しくても他に困っている人がいれば自分より優先して手助けをする人間だ。
ある日、店のパンを勝手に貧しい子供に与えて店主と喧嘩になっている女性を見かけ、アルが助けると意気投合する。しかし、身分が違うため会えず、再度会おうと地上街にある一 番大きな会社『Agra 社』に乗り込んだところ警備に捕まってしまう。その警備が会社の幹部アビスで、地下室に行きメガネ型小型機械『サイト』を取ってくれば解放するという取引を持ちかける。アルは応じて、地下室のセキュリティを難なく超えるが最後に引っ掛かり地下室に逆戻りしてしまう。
そこで、閉じ込められたアルはすることがなく手にあった『サイト:プロトタイプ』を装着すると、視界に美少女 AI アリスが現れ願いを叶えてくれるという。その願いで無事に地下室から出られたアルは、ネージュと釣り合う男になりたいという欲望を願う。すると、AI の力で一気に社長に成り上がり、Agra 社と並ぶほど大きな会社の社長になる。アルは再度ネージュと会うことができ相思相愛を確認するが、『サイト:プロトタイプ』を欲していたアビスに見つかってしまい、追われる身となる。アビスは『サイト』の運営元で、プロトタイプ以外の『サイト』を通して人を操ることができるため、社長を利用しネージュを人質にしたりと非道なことを繰り返す。
なんとかアリスの力を借りつつアビスの撃退に成功し、社長とネージュを守ることができる。しかし、アルは AI の力だけで社長に成り上がったことや元貧民という後ろめたいことが多く嘘を付いていたこともあり、ネージュと社長の前から姿を消すが、ネージュがアルを追い、社長の命で 2 人は幸せになる。