『初恋』安川 明里『初恋』ってどんなものだろう。あの子の顔も声ももう思い出せないけれど、あの子と遊んだ公園を通り過ぎた時、ふと三秒間だけ思い出したり思い出さなかったりするような。久しぶりって挨拶したら、今のあなたは、今の僕に、なんて返してくれるだろうか。※本作は3年生の作品になります※ ご感想はページ下部のコメント欄までお願いいたします。▷ 映像表現・理論コース [映像専攻] の映像作品 About 映像表現・理論コース
『初恋』ってどんなものだろう。あの子の顔も声ももう思い出せないけれど、あの子と遊んだ公園を通り過ぎた時、ふと三秒間だけ思い出したり思い出さなかったりするような。久しぶりって挨拶したら、今のあなたは、今の僕に、なんて返してくれるだろうか。※本作は3年生の作品になります※ ご感想はページ下部のコメント欄までお願いいたします。▷ 映像表現・理論コース [映像専攻] の映像作品 About 映像表現・理論コース
本作が「初恋」の映像化をするために動き出した企画なのか、何か象徴的な小道具を使ったドラマにしたくて「初恋」を発見したのかはわかりませんが、いずれにせよもう少し原典の咀嚼が必要なのではという印象を持ちました。りんご畑で好きな子にりんごを手渡された情景を歌った詩から、少女の手にあるりんごだけを児童公園のベンチに転送することを「『初恋』を原案にした」と言ってしまっていいのだろうか、という疑問と、中盤に登場するクロースアップのりんごがこの映画が回収しきれないほどのアダルトな気配を纏っているのがその理由で、そうでなくとも古今東西のさまざまな隠喩、意味合いが輻輳的に折り重なっているこの表象をカメラの前に引っ張り出すより、現代の少年少女の世界にある「藤村のりんご」に相当するモチーフをゼロから探す方が本作にはよりしっくりきたのではないかと思います。
正攻法のどっしりとしたカメラが『初恋』という語り尽くされたテーマを支えていて見応えのある作品になっています。また後半で男が電話をしながらベンチに座り「こないだ言ってたあそこ行かない?」からのイメージの重ねかたは見事だと思います。ただ、“りんご”というモチーフが終始無反省に出てくるところは(島崎藤村『初恋』が下敷きにあっても)少し鼻じらんでしまうのは私だけでしょうか。また撮影された映像がこれだけの力を持っているので、オープニングではもっと我慢して使うカットを厳選しても良いかもしれません。