<あらすじ>
香港の都市部から遠く離れた新界(New Territory)の村でイギリス人の母・Helenとふたりで暮らす楓花。母・ゆりを亡くし、貿易業を営む父・類と、香港中心部に構える豪邸に住む李人。忙しい外交官の両親を持ち、李人と常に行動を共にする京介。それぞれが孤独を抱える6歳の彼らは、新界の美しい白壁の平屋で、Helenの温かな歓迎のもと、兄弟のように遊ぶようになる。しかし、母・ゆりの三回忌の席に、ゆりの父が乗り込んできて、「お前がゆりを殺した」「あの外人の娘はどうした」と類を怒鳴りつけたことで、Helenと父の不倫で母が心を病んだこと、楓花は自分と後継を争う腹違いの妹であることを李人が理解する。
真実を知った李人が楓花を拒絶し、交流が途絶えてから月日は流れる。高校2年生、16歳になった3人。進路選択を前にした李人と京介のもとに、楓花が新界の村を出て、突然転入してくる。時を経て、身体の関係を交わすようになった李人と京介。過剰な教育ママだった母・Helenの束縛を離れ、自由を感じる楓花。香港の雨模様の中、大人に向かっていく3人は、未来に何を望むのかを互いに問う。日本文学を愛し、日本の大学に行きたいと望む楓花、長年の片思いに蹴りをつけ、李人との身体だけの関係を終わらせたい京介。後継としての自分、妹である楓花の存在、父への思い、複雑な感情を処理できない李人は夢を語ることなどできない。
そして、楓花がHelenの徹底的な管理のもと辿ってきた村での辛い日々、そして、村を出た本当の理由であるHelenの死を語ったとき、李人は白壁の美しい家を前に決める。「燃やそう」。Helenと類が2人で建てた愛の家。新界の森の中、忌々しい記憶を消すように、李人は思い出の家に火をつける。
本文は日藝博期間中、江古田校舎で読むことができます。
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