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『指の先から』小野 慧音

<あらすじ>

 高校3年生のすずは、あえて友達を作らず、学生生活の中で誰とも喋ることなく、心を閉ざした日々を送っている。すずがそうなったきっかけは、父の会社が倒産し、両親の仲が徐々に悪くなっていく姿を見て、友達や家族と言った関係に、希望が持てなくなってしまったからだ。すずの同級生で、中学時代仲が良かった晃はこう語っている。「誰から見ても、理想的な家族だった」と。

 そんなすずには、唯一のかけがえのない存在であるルゥという犬が居る。ルゥはすずの癒しであり、家族であり、友達であり、たった1つの居場所だった。そんなある日、学校から帰宅すると、普段夜にしか帰ってこない父・厚史の車が停まっていた。すずがルゥに会いに行くとそこには、ルゥを虐待している父の姿があった。父を止めて、家に帰ってきた母である菜穂子に相談しようとするも、逆に「父とはもうやっていけない」と愚痴を聞かされてしまう。

 自分しかルゥを守ることはできないと悟ったすずは、進学先を東京から地元の福岡の大学へ帰ることを決意する。高校の卒業式には、母への感謝をスピーチに表すが、結局母が卒業式に顔を出す事はなかった。その時も、ルゥだけがすずの卒業をお祝いしてくれた。大学生になったすずは、塾でアルバイトをしている。父との関係性は相変わらずだが、前ほど人と関係を築くことに、毛嫌いすることはなくなっていた。

 しかし塾でアルバイトの欠員が出た日、ルゥは厚史の虐待の末に亡くなってしまう。ルゥが亡くなったショックと怒りで、厚史を殺すとするすずだったが、結局それは出来ず、荷物を全て持ち、家を飛び出していく。

 そこで出会ったのがネイリストである美冬だった。ルゥが亡くなってすぐ、東京に向かう夜行バスの中で出会った2人は、ネイルを介して、徐々に心を開いていく。

 2年ほどの時を経て、ようやくネイリストとして自立できるようになったすずは、美冬とすずで暮らしていた。

 ある日、郵便受けに菜穂子からの手紙に気づく美冬。「会いたくない」と拒否するすずと、「いい加減に、自分を責めずに生きて欲しい」と願う美冬は分かり合えず、喧嘩をしてしまう。そんな時、お客さんである加藤と出会う。加藤は、自分の注意不足から愛猫を亡くしていた。その人と自分のルゥへの後悔を話す吐露する中で、少しずつ今の自分の気持ちを受け止めていくすず。家に帰り、改めて美冬と話す決心をする。


 

本文は日藝博期間中、江古田校舎で読むことができます。


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