<論文概要>
今までのF・W・ムルナウの映画に関する研究は、彼の映画をドイツ時代とアメリカ時代に分けて行われる傾向があった。こうして二つの方向性に分かれてしまったムルナウの映画を貫く要素を求めて、本論文では「共同体」に注目する。
研究は「共同体」からはじめて、それを構成する「一人の人間」と、その二つが出会う「空間」を分析する。抽象的な概念はムルナウと同時代に活動していた諸学者の理論に合わせて明確にし、ムルナウ映画の物語構造から人物の心理や二項対立に置かれた空間の隠喩も見出す。
ムルナウは、共同体を不安の象徴として、また主人公の居場所の擬人化として物語の展開に活用する。彼の映画において共同体は、それが個人に及ぼす影響に対する「好奇心」による純粋な「記号」となっている。必然的に共同体に属して生きるしかない一人の人間として、自分の共同体とその一員としての自分を省みるようになる力を持った、恐ろしい記号なのである。
本文は日藝博期間中、江古田校舎で読むことができます。
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